2019年10月01日
2018年01月07日
「核のゴミ」の地層処分

原発から出されたの高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場についてNUMO(原子力発電環境整備機構)と経済産業省共催の意見交換会が12月19日、鹿児島市内で開かれたので参加した。これは、その時のことの覚書。年末、年始でバタバタしており、ようやく去年の宿題ができた。
ここでいう高レベル放射性廃棄物とは、原発で使い終わった燃料(使用済燃料)から再利用できるウランやプルトニウムを回収すると、核分裂生成物を含む放射能レベルの高い廃液が残り、この廃液を溶かしたガラスと混ぜ合わせ、固めて「ガラス固化体」にしたもの。
100万kWの原発から、年間約30トンの使用済燃料が出され、これから約15㎥の高レベル放射性廃液が生じ、約30本のガラス固化体が作られる。2005年10月28日に閣議決定された「特定放射性廃棄物の最終処分に関する計画」によれば、2005年から平成2014年までの間に、毎年約1,100本から1,500本のガラス固化体に相当する高レベル放射性廃棄物が発生するという。
原発は「トイレなきマンション」といわれてきたが、放射性廃棄物の処分場の問題を棚上げにしたまま増設してきた。今回の意見交換会は、NUMOが公表した「トイレ」の設置場所に適した地域を色分けしたマップについての説明会だった。
最終処分場についてのこれまでの経過をおさらい。
高レベル放射性廃棄物の処分方法は「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律(2000年5月成立、2002年6月公布)」で「地層処分」するということが決められた。そのため、2002年10月には、最終処分の実施主体となるNUMOを設立。「最終処分施設」設置の可能性を調査することを受け入れる自治体の公募が開始された。しかしその後、自治体からの応募がほとんどなく、処分地の選定が難航する状態が続いた。
ただし、公募に応じる動きは各地で起きた。鹿児島でも2005年1月に笠沙町(現・南さつま市)、2006年8月に宇検村、2009年12月に南大隅町で町長らが公募に手を上げようとした。これらの動きは、議会での核関連施設拒否条例等の制定で断念となった。
処分地の選定が難航する状態が続いたため、政府は2015年5月22日に公募に頼る従来の方式から、国が主導して選ぶ方式に転換する基本方針を閣議決定した。そして2017年7月28日、経済産業省資源エネルギー庁により今回の「科学的特性マップ」が提示された。「科学的特性マップ」についてNUMOは、地層処分に関係する地域の科学的特性を、既存の全国データに基づき一定の要件・基準に従って客観的に整理し、全国地図の形で示したものとしている。
なお、地層処分については①「シンポジウム・地層処分を考える」が2014年5月~2015年3月に29会場で、②「全国シンポジウム・いま改めて考えよう地層処分」が2015年5月~6月に9会場で、③「全国シンポジウム・いま改めて考えよう地層処分~処分地の適性と段階的な選定の進め方」が2015年10月に9会場で、④「全国シンポジウム・いま改めて考えよう地層処分~科学的有望地の提示に向けて」が2016 年5月~6月に9会場で、⑤「高レベル放射性廃棄物について考える地層処分セミナー」が2016年7月~10月に17会場で、⑥「高レベル放射性廃棄物について考える地層処分意見交換会」が2016年10月~11月に9会場で、⑦「高レベル放射性廃棄物について考える地層処分セミナー」が2017年2月~3月に5会場で、⑧「全国シンポジウム・いま改めて考えよう地層処分~科学的特性マップの提示に向けて」が2017年5月~6月に9会場で、開かれている。
科学的特性マップに関する意見交換会は、2017年10月17日の 東京都千代田区からスタートし鹿児島市は27カ所目だった。ところが11月6日にさいたま市で開いた意見交換会の際、若者への広報業務を委託した業者が謝礼金などを提供する約束で参加者の一部を動員していたことが分かった。これまでの原発の新・増設問題や3.11福島第1原発事故で、原子力事業への国民の信頼性が失墜している中で、NUMOには事業遂行の各過程において常に公正性と信頼性が確保されなければならないのに出発点から汚点を残した。
鹿児島での意見交換会でも、参加者からの最初の質問でも謝礼金問題への対応について参加者から批判的な意見が出された。謝礼金問題の実情が判明するまで意見交換会を中止すべきとの意見も出たが、この日の意見交換会は続行された。
謝礼金問題でNUMOは12月27日、全国での意見交換会を46カ所で予定していたが12月20日の28カ所目の宮崎以降の開催を中断し、運営を抜本的に見直すと発表した。外部有識者による調査チームは同日調査報告を公表。79人の学生が謝礼を受ける約束でイベント参加を持ちかけられ、うち2人に各5000円が実際に支払われたことが判明した。意見交換会には、電力会社関係者67人が一般参加したことも分かった。いずれも意見交換会での発言を誘導したケースはなかったという。謝礼金問題が発覚した11月6日以降の意見交換会をただちに中止しなかった、NUMO経営陣のリスク感度の鈍さが明らかになった。
さて、鹿児島の意見交換会では、地層処分の仕組みと「科学的特性マップ」について1時間半ほど主催者側から説明があった。
説明によると、国が考えている地層処分とは、高レベル放射性廃棄物を地下300mほどの深い安定した岩盤に埋設するという(「天然バリア」と呼んでいる)。その際放射性物質を取り込んだ「ガラス固化体」を約20㎝の厚さの金属製容器に格納し(オーバーパック)、さらに約70㎝の厚さの粘土で包むそうだ(「人工バリア」と呼んでいる)。処分場施設の規模は、「ガラス固化体」4万本以上埋設できる広さで、地上施設1~2㎢、地下施設が6~10㎢、地下坑道の総延長は200~300kmを見込んでいる。操業から50年ほどで坑道は埋められ、地上施設は解体撤去され最終的には更地に戻される。
「科学的特性マップ」は4色に色分けされている。地層処分に好ましくない範囲の具体的な要件・基準として火山活動や断層活動などの7項目のいずれか一つでも該当した地域はオレンジ色。地下資源が地下深部に存在すると推定されるエリアも将来の人間侵入の可能性から地層処分に好ましくないとされ、シルバーに。これ以外の「好ましい特性が確認できる可能性が相対的に高い」地域はグリーンに。さらに海岸から20km以内は高レベル廃棄物の「輸送面でも好ましい」と位置付け、濃いグリーンで塗られている。
オレンジの部分は国土全体の30%、シルバーは5%。一方、グリーンは35%、濃いグリーンは30%を占めた。ちなみに既存の原発54基の設置場所は、町のほぼ全域が石炭埋蔵地とされシルバーに塗られた玄海原発を除いて、すべて濃いグリーンになっている。
鹿児島県内で自治体の一部でも濃いグリーンの「最適地」とされたのは、36市町村(15市・18町・3村)ある。全域が好ましくない地域とされた指宿市、垂水市、伊佐市、姶良市、三島村、湧水町、喜界町は、基本的に火山活動によるものだが、喜界町は隆起量が多いためとなっている。なお2017年8月8日の南日本新聞によると、県知事も「最適地」とされた県内36市町村の首長すべてが、処分地受け入れ反対を表明している。
NUMOは今後、意見交換会を続け、「好ましい地域・マツプの濃いグリーン地域」を中心に重点的に対話活動を進めるとしている。そして調査受け入れに手を上げた自治体で、20年ほどかけて①文献調査(約2年)、②ボーリングなどの概要調査(約4年)、③地下深部での精密調査(約14年)をし、安全な地層処分が可能かどうかを評価する。調査の段階ごとに結果発表し、反対される場合は次の段階に進まないと言っている。処分場に選定されれば処分場の建設に10年程度かけ、50年以上操業しその後処分場を閉鎖する。
今回は説明がなかったが、「文献調査」に最高20億円、「概要調査」には最高70億円が当該自治体、県、周辺自治体に交付される。このうち半額以上が当該自治体に。「精密調査」以降の交付額は未定。交付金は電気料金が原資になる。
地層処分の仕組みと「科学的特性マップ」の説明について、会場から「地層処分の総量規制についてどう考えるか」との質問があった。総量規制とは、高レベル放射性廃棄物の総量は、原子力依存度の低減と関係するため、処分場の議論の前提に今後の原発についての議論が必要ということ。これに対し経済産業省の担当者は「総量規制と関係なく地層処分の問題は処理できます」と、意見交換の姿勢は見せず説明をそのまま受け入れろといった姿勢だった。
また、「本県は、県知事も好ましい地域の首長もみんな受け入れ反対を表明しているが、今後県内での対話活動についての考えを」との質問については、「鹿児島県内においても対話活動をしたい。いろいろな団体から勉強したいと要望があればすすめる」と答えた。「調査を受け入れた場合も、途中で知事や市町村長のご意見を伺い反対される場合には次の段階に進みません」と言っていながら、このような回答をするのでは、信頼性がますます崩れるということが分かってないようだ。
私が説明を聞いていて一番奇異に感じたのは、「科学的特性マップ」の「科学的」という冠だ。自分たちの言っていることを何の根拠もなしにこれは正しいことだと言いたい人間に限って「科学的」という冠をつけたがる。だから科学的社会主義を標榜する人たちも信用していない。まあ、これはどうでもいいことだが。
地層処分に好ましくない地域の要件としてあげた火山活動について、マグマの噴出はこれまでのデータから火山の中心から半径15kmの範囲にとどまっていることから、火山の中心から半径15km以内と加えてカルデラ内全域をオレンジ色にしたとしている。
また、活断層については、断層長10km以上の500強だけを対象に、活断層の長さの100分の1の幅の部分をオレンジ色に塗っている。
火山活動は2017年12月13日の伊方原発運転差し止め訴訟の広島高裁判決の「阿蘇カルデラの火砕流は130km以上に到達した可能性は小さくない」との判示を待つまでもなく、「科学的特性マップ」には現在の火山学の知見が反映されていない。活断層についても、そもそも発見されてない活断層が数千の単位であると言われているにもかかわらず、発見されている活断層のそれも500強だけしか対象にしていない。
こういうものに「科学的」と名付けるのはいかがなものか。せいぜい危険性をこういうことに想定すればこういうマップになるということで、「想定的」あるいは「仮定的」マップと名付けるべきだろう。
とはいえ、日本にはすでに「ガラス固化体」に換算して25,000本分の核のゴミがでている。これをどう処分するか、以前の「原発安全神話」と同様のやり方で進めるNUMOにまかせていれば、また「想定外」のことが起こるのは確実だろう。鹿児島市内にできなかった、県内にできなかったからよかったという問題ではないだろう。
先に書いたように、当初公募方式で進めていた処分地選定が暗礁に乗り上げた時期の2010年9月、政府は日本学術会議に「高レベル放射性廃棄物の処分に関する取組みについて」審議依頼した。
日本学術会議とは、行政、産業及び国民生活に科学を反映、浸透させることを目的として、1949年1月に内閣総理大臣の所轄の下、政府から独立して職務を行う「特別の機関」として設立されたもの。
日本学術会議は2012年9月、「原子力発電をめぐる大局的政策についての合意形成に十分取組まないまま、高レベル放射性廃棄物の最終処分地の選定という個別的課題について合意形成を求めるのは、手続き的に逆転しており手順として適切でない」という判断に立脚し、「高レベル放射性廃棄物の処分について、従来の政策枠組みをいったん白紙に戻すくらいの覚悟を持って、見直しをすることが必要である」として6つの提言を回答した。
6つの提言の概要は
①高レベル放射性廃棄物の処分に関する政策の抜本的見直し
②科学・技術的能力の限界の認識と科学的自律性の確保
③暫定保管および総量管理を柱とした政策枠組みの再構築
④負担の公平性に対する説得力ある政策決定手続きの必要性
⑤討論の場の設置による多段階合意形成の手続きの必要性
⑥問題解決には長期的な粘り強い取組みが必要であることへの認識
つまり「原発などエネルギー政策についての社会的合意がないまま、高レベル放射性廃棄物の処分地の決定に取り組むという、転倒した手続きが根源的な問題」「入手可能な科学的知見の限界を考えると地層処分を考えるのはリスクが大きすぎる」「受益圏と受苦圏が分離するという不公平な状況への対処として、交付金などの金銭的便益提供で対応するのは不適切」と指摘している。
にもかかわらず、政府・NUMOはこの「提言」を受け入れず、「地層処分が科学的に正しく、受け入れてくれればお金を沢山払います」の方針を変えないまま。
後世の人々のためにできることは、できる限り使用済燃料を出さないことと、既に出している使用済燃料の処理について、最も負担が少ないであろう解決策を見出すこと。後世に負の遺産を残すという事態を避ける最大限の努力をすることが私たちの責任と思う。「提言」が完璧な物とは思わないが、そのための有力な素材といえる。
日本学術会議は2015年4月には、6つの提言の中で提唱された暫定保管や、合意形成の手続きなどについて、12項目の具体的方策を示している。
◆「6つの提言」は下記アドレスに
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-22-k159-1.pdf
◆「12項目の具体的方策」は下記アドレスに
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-23-t212-1.pdf
それぞれ36ページ、20ページのペーパーだが、「要旨」部分だけでもお読みください。
◆科学的特性マップは下記アドレスに
https://www.numo.or.jp/kagakutekitokusei_map/pdf/kagakutekitokuseimap.pdf
◆科学的特性マップ・地域ブロック図は下記アドレスに
https://www.numo.or.jp/kagakutekitokusei_map/detail_03.html
◆NUMOの「地層処分」パンフレットは下記アドレスに
https://www.numo.or.jp/kagakutekitokusei_map/pdf/shittehoshii_a4.pdf