2017年09月12日

天文館で50年続く店






9月10日(日)、鹿児島ジャズフェスティバルのサテライトステージ開始までの間、飲みに行ったのは昔なじみの店。といっても10年ぶりかな。天文館公園から150メートルほど西に行った二官橋通り沿いの「一代」。

「確か日曜は開けて、月曜が定休日だったよな」と思いながらも、「もう店を閉めてるかも」と不安をいだきつつ店の方に歩いて行った。

角を曲がると看板が見え明かりもついていた。おっ、まだやっていたと思いながら、戸を開けると店中は以前と全く変わらないままだった。

壁には、10年前の40周年の「感謝」額と、今年の50周年ポスターが張ってあった。

この店に通い始めたのは、三十数年前だったが、その頃から40周年を過ぎたような店構えだった。焼き鳥とタバコと焼酎の臭いが染みついたような板壁に囲まれた、飾り気は一つもない店だった。無口なおじさんと女将さんが切り盛りしていた。

カウンター席には常連のおっちゃん6、7人。奥の座敷は仕事帰りの若者が20人程でいつも満席の盛況ぶりだった。仕事帰りにすぐ店に行っても満杯で「後で来るね」と言って、2時間おきくらいに何度も顔を出しても入れないということを、何回も経験したくらい流行っていた。30代から40代の頃は最低週1回、いやそれ以上かは通っていた。

バブル期の頃だったか、私と一緒に行った者が女将さんに「おばちゃん、店構えをもっときれいにしたら客がもっと入るよ」声をかけた。

「そんな店はいくつも知ってるよ。でもね、どの店も改装代を料金に上乗せして、客が減ってつぶれてしまったよ。うちは安いままでいくから店もこのまま」と、笑いながら答えていた。

本当に安さは天文館でもピカ一だった。当時はセンベロなどという言葉はなかったが、天文館の元祖センベロ。安月給のサラリーマンには、もってこいの飲み屋だった。

枝豆に刺身の盛り合わせ、焼き鳥の盛り合わせ、これに唐揚げあるいは豆腐をつまみに、生ビール大瓶一杯と焼酎を腹いっぱい飲んでも2000円で十分におつりが来た。冬はおでんやカキもおいしかった。

刺身盛と言っても、最近のこじゃれた店が出すカンナで削ったような薄い切り身ではなく、ステーキ並みの厚さがある刺身だ。焼き鳥や唐揚げも同様だった。

他の飲み屋で飲んだ時は、最後の〆にここでウナギを食べていた。うな重を注文する奴もいたしウナギだけでもオッケーだった。値段はうなぎ屋の半額くらいだったが味は負けていなかった。

久しぶりに顔を出したが、相変わらず、いや、焼などの調理をしていたおじさんの姿はなかった。女将さんが注文を受け、刺身を切ったり、焼き鳥を焼いて飲物と一緒に客に配膳していた。途中から若い女性が配膳や注文取りに入っていた。

この日は、生ビールと刺身と焼き鳥の盛を注文した。メニューは以前と比べて品数は減っていたが、刺身は相変わらず厚切りだった。女将さんは三十数年前とほとんど変わらない風貌で切り盛りしていた。

この日の勘定は、料理のボリュウムで比べると、他店の約半額だった。天文館の小さな店が半世紀以上続ているのは、店構えよりも客の懐具合を第一に考えてくれているからだろう。また行かねば。



  


Posted by kotota at 22:48Comments(0)随筆

2017年07月26日

「はがき随筆」1月~6月

毎日新聞・鹿児島版の「はがき随筆」コーナーに掲載された随筆です。





















  


Posted by kotota at 15:15Comments(0)随筆