「コメを食うとバカになる」論が引き金
小学校の低学年の頃だったか、大人たちが世間話の中で「コメを食べるとバカになるっちよ。うちの子に何ば食べさせたらよかかね」と話しているのを何度か聞いた。大人たちの、単なるうわさ話と思っていた。
慶應義塾大学の医学部教授が1958年に「頭脳―才能をひきだす処方箋」という本の中で「日本が欧米に劣っているのは米を食べているから」と提唱していた。小麦食品業界はこの本をベースに「米を食べると馬鹿(ばか)になる」というパンフレットを作成し、数十万枚も配布したそうだ。当時の大人たちは、このことを真に受けていたのだ。
30代の頃、職場と自宅の中間地点が繁華街の天文館。足蹴(あしげ)く通った飲み屋で、コメの研究者の鹿児島大学農学部・U教授と知り合った。「コメの旨(うま)さの決め手は開花期間の長さ。だから、花が咲く時期に涼しくなる伊佐地方のコメは南国でも美味(おい)しい」などコメ談義をしてくれた。しかし「文部省はね、論文のタイトルに『米』の一文字でも入ると、研究費を払わなくなった。学問の世界にも減反政策。将来、主食はどうなるんだ」と、現在の騒動を予言するかのように憂いていた。
医学部教授のトンデモ本の影響もあり、62年をピークにコメの消費量が減り、70年に減反政策が始まった。2018年減反政策は終わったが、引き続きコメから転作する農家への補助金は継続しており、減反は続いている。令和の米騒動を政府は流通問題で片付けようとしている。市場に出せるコメの生産量を的確に把握し、政策転換をしなければ、日本人の胃袋は主食を含め海外に握られてしまうのではないか。
関連記事