酢工場の臭いがする 図書館の一角
明治後期と戦後すぐの鹿児島県内の出来事を知りたくて、県立図書館を訪ねた。当時の新聞記事を見るため、閲覧願いを出した。館内には1882年2月から2年前までの地元新聞が、マイクロフィルム化されている。
マイクロフィルムは、カメラで新聞などを縮小撮影し、マイクロリーダーという投影機で拡大し閲覧する。一般の写真フィルムより画像粒子が細かく、新聞の小さな文字も記録できる。10億4000万画素に相当する。同館は1973年5月にこの事業をスタートした。
10件ほど依頼したが「フィルム劣化のため閲覧不可能な紙面があります」と伝えられた。今のマイクロフィルムは100~300年の耐久性があり、改竄(ざん)が困難なため重要情報の保存に適している。ただし、1990年代初期までの製品は30年程度で劣化する。同館では「早いものは18年目から始まった」。フイルム素材が加水分解され表面に酢酸ができる「ビネガー(西洋酢)シンドローム」が起きるためだ。保管場所のドアを開けると、ツーンと酸っぱい臭いがする。全国で同じ問題を抱えているだろう。
新聞という記録財産の価値は、紙面から時代の空気が感じられること。記事、写真、広告などからその日が伝わってくる。1949年4月の事を調べたが、紙面は表裏の二面だけ。戦後の物資不足で、印刷用紙が統制割り当てだったことも知った。
同館では、劣化したフィルムは再作成かデジタル化を検討しているが「予算の関係で具体化は進んでいない」と、職員はもどかしそうだった。県民の貴重な記録財産が再生できなければ、それは県政の劣化だろう。
関連記事